▼おはなし

「奈々子っちの部屋はここッスー」
「すみません、有難うございます」
「いいんスよ、こんな事くらい」

 先程買ってきた荷物をどさっとここに置く。「こんな事くらい」ではない、と思った。もうベッドもテーブルも備え付けてある。…おそらくここは客間のようだ。少々埃っぽいが、掃除すれば本来の綺麗な部屋に戻るだろう。

「…黒子君も、一緒に住んでるんですよね?」
「はい、僕はちょっとした小部屋ですけど」
「黒子っちが、ここでいいって言ったから、あんなトコにしちゃったけど」
「あんなとこ?」

 私が首を傾げてみせると、黒子君に手を引かれる。「案内します。ついて着てください」と言われた。
 そして、たどり着いたのがここなのだが…。

「えっと…」
「階段の中が部屋になってるって格好いいですよね」
「…部屋じゃなくて、物置なんスけどね…」

 階段の側面には確かに扉がある。だが、黄瀬さんの言うとおり、ここは物置だと思うのだが…。

「だとしても、僕はここを気に入りました」
「でも、私と部屋を分けた方がいいのでは…」
「奈々子っちそれは駄目!!女の子の部屋に男もいれるなんて、俺は許さないッスよ!」
「そういうものなんですか…?」
「せ、説明はできねーけど…とにかく駄目!!」

 黄瀬さんは頑なに、私と黒子君が同室になるのを駄目だという。隣の黒子君を見るが、黒子君も「僕も説明できません」なんていうので、明日でも笠松さんに聞いてみようか…。

**

「役割分担をもう一度決めましょう」
「そッスね、奈々子っち、居間にいこ」
「はい」

 そう黄瀬さんは言いながらも、私の手を引く。どうも先程から手を引かれてばかりだ。

「どうして手を引くんですか?ついていけば大丈夫ですよ」
「あー…ごめん。嫌だった?」
「嫌ではないです。暖かいですし…でもどうしてなのかと思って」
「…奈々子っち、ケガしてるし。なんとなくぽわーんとしてるから目を離したら、どっか行きそうだなーって思って…」

 ねえ?と黄瀬さんは黒子君を見る。黒子君も先程私の手を引いてくれた。

「確かに言われてみればそんな気がします…」
「そうなんですか…」

 ぽわーん。目を離したらどっかいきそう。…そんなに私って、頼りない感じなのだろうか。ちょっとショックである。

「あーあー、全然けなしてないッスよ?…黒子っちもそんな感じだし」
「…そうですか?」

 私のそんな様子をみて、黄瀬さんが慌てて黒子君もそんな感じだといい始めた。私を慰めようとしているのだろうか。本当に優しい人だ。黒子君は全然気にしてない風だ。彼は私をみる。

「貴女と同じなら、それもいいかもしれないですね」
「黒子君…」
「…な、なんかストーップ!役割分担の話をするッスよ!」

 居間についた。黄瀬さんは手を叩いた後、かけてあったホワイトボードを取り外した。ホワイトボードはすでにいろいろ書き込まれていた。テーブルの上に置かれたそれを見る。『料理オレ 皿洗い黒子っち 買い物黒子っち ゴミ出し交代 掃除交代 洗濯交代』と書かれている。

「奈々子っちが来たから、変えなくちゃね」
「そうですね…一ヶ月くらい前に決めたばかりですけど」
「一ヶ月前に一緒に住み始めたんですか?」
「あぁ…」

 「奈々子っちに、黒子っちの事話してなかったよね」といいながら、黄瀬さんは黒子君を見た。

「僕は旅をしている者なんです。…でも所持金が底をついて行き倒れていた所、丁度通りかかった黄瀬君に助けられて、ずるずるとそのまま生活してます」
「ずるずると、ですか」
「はい、ずるずるとです」
「二人ともどこに食いついてんスか」

 黄瀬さんがすかさずツッコむ。おもわず頭をかきながら笑う。というか黒子君は旅人だったのか…。

「…黒子君は、色んな場所をわたってきたんですか?」
「ええ、まぁ」
「私も着いていきたいです…旅は再開しないんですか?」
「…そうしたいんですが、最近モンスターが増えてきているので…」
「えっ…?」
「だから、暫くおさまるまで、黄瀬くんの所にご厄介になっているんです」
「…そうなんですか」

 少し重たい空気になってしまった。

「モンスターもその内自警団かなんかが退治して、おさまるっしょ、役割分担について話してもいいッスか?」
「あ、はい」

 そして、話し合った結果。私が料理(多分大丈夫だと思うけど)担当になり、皿洗いは引き続き黒子君。料理と関連しているので買い物も私がいきます、と立候補してみたが、黄瀬さんから重いものを持たせられないとの事で、二人が交代で私の同伴をしてくれる事になった。後のものも交代交代になった。

**

「うまっ!!人に作ってもらう飯、うまっ!!」
「美味しいです」
「有難うございます。二人とも」

 夕方になったので、早速ご飯を作る事にした。二人が心配する中、冷蔵庫にあったものを適当に使い、野菜炒めと、レシピを見て親子丼を作った。それらしいものになった。
二人とも喜んで食べてくれている。そうやって食べてもらえると作ったかいがある。

「やっぱ女の子は料理がうまくなくっちゃあ」
「そうですか?」
「料理の腕が衝撃的な女の子もいるッスからね」

 黄瀬さんが遠い目をする。…過去に何かあったのだろう。

「奈々子さん、そういえばアナライズって知ってますか?」
「アナライズ…?」
「黒子っちナイスアイデア!それ使えば何か分かるかもッス」

 話についていけない。首を傾げると、ああっと黄瀬さんが手をわたわたしながら説明してくれた。

「アナライズは主にモンスターの弱点や特徴を解析する技なんスけど…」
「それを私にやろうって事ですね、やりましょう。何か分かるかもしれませんし」

 で、どうやるんだ?意気込んだはいいものの、私は固まる。それを見た黄瀬さんは笑いながら「オレがやってみせるッス」と言う。向かいに立つよう促される。そして黄瀬さんは「魔法は苦手ッスけど、いくッスよ」と、不穏な事を言った。彼は、何か呪文を唱えた。彼がかざした手のひらから、光の玉みたいなのが出てきて、私の体のまわりをぐるぐる…と回って、消えた。

「見えたッス!」

 黄瀬さんが半ば興奮している。結果はどうなったんだろう。

「えっとッスね、奈々子って名前と、全属性に弱点がないことと、スリーサイズが分かったッス…そんだけッス」
「黄瀬君…最低ですね」
「えええ!?」
「スリーサイズですか…」

 両胸に手をあててみる。黄瀬さんはそれを見て、かああと顔を赤くして、手をぶんぶん振った。

「何故か頭に入ってきたんス!!誤解ッスよう!!」
「何が誤解なんですか?」

 黒子君と私の前で跪く黄瀬さん。目には涙が浮かんでいる。

「っていうか、奈々子っちの事調べようとしたら、黒いもやみたいなのがかかって全然深く読み取れなかったんスよね」
「そうなんですか」
「よくわかんねーんスけど…紫原っちや赤司っちがやったら、もっと分かるかもしんねーッス」

 …黒いもや。普通起きない事みたいだ。黄瀬さんはしきりに「おかしいなー」と首をひねっている。

いい子。
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