大学満喫

 苦労して入った学校に、今もさらに苦労するとは。只今入学式の日。サークル勧誘の人の波に揉まれている。渡されたチラシを受け取る、受け取る。おかげで両手いっぱいに紙を抱えている。あまり得意でない運動系のサークルのチラシもついつい受け取ってしまう。だってあまりにも一生懸命だ。凄く話を聞いて欲しいオーラをまとっているが、後ろの人がいるので話を聞く為立ち止まるわけにもいかず、何だか申し訳ないような気持ちになる。だけども、頭を下げながら色々受け取っていく。

 慣れないヒールでよろける。つっかえながらも行列のようなひとごみを、ぐらぐらと進んでいく。上級生の方々が張りあがる声は、少しだけ、入学して早々の不安な気持ちを増長させる。

「アカシ君も、絶対はいった方がいいよ!」
「いや、うちの方が絶対楽しいから、友達とか普通に出来るぞ?」

 何やら、行列が終わりに近づくにあたって「アカシ君」という人を勧誘している声が耳に入り始めた。アカシ…どっかで聞いた。と記憶を巡らせば、つい先程入学式で新入生代表だった気がする。そんな立派な子なら、是非とも自分のサークルに入ってほしいだろうな。
 遠くから、それに赤い髪した後ろ姿しか見てない。どんな人だろう(っていうか困っているだろうなぁ大変だろうに)と好奇心が沸き、私は先の先輩達の囲いの中心にいるであろう彼を見つけようと、歩きながらじっと目を凝らした。
 中の赤い髪の人を見つけた。キレイな顔で爽やかに微笑んでいた。あんな状況でステキに笑えるなんて、とても凄い人だな。それが第一印象だった。ふと、その薄く開いた目線がこちらとかち合った。その瞬間、少し表情が変わった気がする。私と目が合うと、笑うのをやめたような気がした。…あ、じっと見つめられるって良い気分ではないよな。…彼に何だか悪い事をした。罪悪感を感じたら、咄嗟に顔を下に向けていた。
 あのキレイな顔の微笑みを取り去ってしまった。入学早々、人に嫌な気持ちをさせるとか、私って…。自己嫌悪も生じてきた。
 そう思ったら疲れがどっと出てきた。体がだるいかもしれない。
見えてなかった校門を過ぎて、人ごみが、わっと広がった。空間が開けて、何だか久しぶりに新鮮な空気を吸い込んだような気がした。ふと後ろを振り返ると、キャンパスが見える。入学したんだな、と思うと共に、さっきの距離からしてアカシ君は校門の傍にいるんだろう。…彼、しばらく先輩達が離してくれないんじゃないかな。…大丈夫かな。とも思った。
 でも話した事もない。友達でもないし、彼の気持ちも分からない。(案外楽しそうだった…しなぁ)おせっかいに口出しするなんて、無理だな。と、分かったら、下宿してるアパートにさっさと帰ろうとした。駅まで戻らなくては。くるりと校舎に背を向けようとした。…バランスを崩した。買って貰ったスーツでこけるとか私ってホント馬鹿とゆっくり思った時だった。

「……あれ?」
「やっぱり、転ぶと思った」
「…アカシ、君?」

 しばらく経っても痛みが走らないこと、右手がぐっと誰かに掴まれ、地面にちゃんと立たされた事から、私は間一髪、助けられたらしい。ぱっと手をはなされた時、助けてくれた相手を見ると、なんとアカシ君だった。ぽかんとしていると、アカシ君が「大丈夫かー」と私達に駆け寄ろうとする先程の先輩達に向かって一言。

「彼女、危なっかしいので送っていきます、失礼します」
「え?え?」
「お、おう分かった…あ!サークル、考えておいてくれよ」
「はい」

 何を言い出してるの。おもわずアカシ君を凝視する。

「歩いてくれないか」

 アカシ君は先程の爽やかな笑みを浮かべ、私にしか聞こえないように小さく呟いた。その言葉は、とてもそうしなければいけない気を起こさせる程冷たく感じた。私はこくこく小さく頷いた。心配してくれた先輩方に頭を下げると、よろよろと足を動かした。

**

「歩き方でヒールに慣れていない奴だと分かった」
「そ、そうだよね…って何か、さっきと雰囲気違うね…」
「君にする必要はないからね」

 ヒールはこれから履くだろうし、慣れるべきだろうな、と言われた。
アカシ君はさらに言葉を付け足す、君はあれを抜け出すいい口実になった。とかなんとか。
 彼は心からでなく、愛想笑いをしてて、やっぱり面倒だったみたいだ。私はふらふらしてたから、彼に助けられ、こうやって一緒に歩くことになっている。彼も駅まで行くらしい。

「アカシ君、だったよね?私っていうの、まずは有難う」
「君を利用しただけだから気にしなくていい」

 少し心にビーチボールが当たったくらいの衝撃を受けた。そこまでオブラートに包まず言う人は、いじめっこくらいだよ…!

「…アカシ君はサークル、何か入るの?」
「特に決めてはいない、入る気がないからな」
「そうなんだーまぁ大変そうだしね、うん」

 今の素の?アカシ君を見る限り、そういう友達作って、はしゃぐとか興味がなさそうだ。
 こういう人を見ていると、私まで何だか入らなくてもいいかもなと思ってしまう。

「そういや学部はどこなの?」
「経済学部」
「へぇ、経済学部…会社でも経営するの?」
「父から継がないといけない」
「おお」

 継ぐなんて単語を聞いたら、大企業の御曹司のように思えてきた。入学式の時の言葉もそうだったけど、やっぱり凄い人なのかもしれない。

「君は?」
「私?薬学部だよ」
「そうか」

 そこでアカシ君の興味は途絶えてしまったのか。私達はその後、あまり喋らないで駅まで歩いた。(っていうか私しか喋ってない)私とアカシ君は反対方向の行き先だった。

「じゃあアカシ君、また今度ね」
「…会う事もないんじゃないか?」
「えっと、そういう訳でも」
「じゃあ、無事に帰れよ」

 電車がもうすぐ着きそうになり、アカシ君は時計を見ると話を切り上げて反対のホームへ行ってしまった。…本当にそういう訳でもないと思うの。キャンパスが違うからって…。

**

 日付が変わり、サークルどうしようかと悩んでいる中、私は薬学部で友達を作れました。あ、じゃあ別にサークル入らなくていいや。と、何だかあの先輩方の勢いに敬遠した私は、サークルに入ることを早々に諦めた。面倒くさそうだし。
 今はその子達の為に食堂で席を取ろうとしている。そんな時、ばっちり、かの人と目が合ってしまった。

「丁度知り合いが来たから、そっちに行く、…どいてくれないか」
「え」

 かの人は女子に囲まれていた。確かに、人気がありそうな顔をしている。
 今度は作り笑いではなく、不機嫌丸出しの顔をしていた。そこまで露骨な人だったのね。少し苦笑いした所、ばっちり視線がかち合ったのである。少しの間、見つめあった気がする。アカシ君はびっくりしたような顔をしたが、その内何か思いついたような悪そうな顔をした。何だろう?と思いながら、その場できょろきょろしていると、空いているテーブルを見つけたので、「あ、座ろう」と思って、とりあえず歩こうとしたら、この言葉である。
 アカシ君は立ち上がり、トレイを持ってその知り合いの元へ視線を向けた。

「アカシ君?ちょ、ちょっと待ってよ!」
「聞こえなかったか?もう一度言おうか、邪魔だ、どけ」

 辛辣である。言い過ぎだろうと思った。そして、何故私?という気持ちになった。何だか棘のある視線が私に突き刺さるんだけど。え?何故私?普通ここはアカシ君に怒るべきだと思うの。

「やぁ
「わぁアカシ君、一日ぶり」

 きゃぴきゃぴした女子達の嫉妬を一手に引き受けるハメになった私に何食わぬ顔をして挨拶するアカシ君。そして何食わぬ顔で私の正面の席に座った

「丁度いい所に居た、…まさか僕に会いにきたのか?」
「いや、それは無いよ、あのねうちのキャンパスには学食がないの、だからこっちまで来たの」
「なんだ」

 つまらなそうな顔のアカシ君に、はははと苦笑いをする。

「一緒に食べてあげればいいのに、とても楽しそうじゃーん」
「君は口うるさい男達に囲まれて食事をするのが楽しいと思うのか」
「いや、あの…いや、やっぱそれは無いわ、気が合う友達のがいいです。ああ丁度いいところに、おおい…うわあ凄い驚いてるよ…。アカシ君も気が合いそうな友達を作れば食事の場所の心配はないんじゃない?」

 好意を持たれてる人達と食事もなかなか面白そうじゃない?と思って言ったら、凄い皮肉られた。…その状況はとても面倒くさい。確かに。苦笑いしそうな所に、友人達が帰って来た。…私達を見て固まっている。知らない男の子と座ってるものね。その内の一人の子が絶句した。

「…ちょ、ちゃん、アカシ君となんで座ってるの!?」

私はアカシ君と顔を見合わせた。

「…有名人?」
「かもしれない」

赤司君と大学。
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