素晴らしき日常
※小話がたくさんあるというスタイル
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中学二年生になった。クラスの顔ぶれや教室、席の順などすっかり変わってしまった。だけど私自身は別段何も変わっていない気がする。
取り残された感はあるが、いつも通り楽しく過ごせればいいかな…。始業式の前、クラス替えでがやがやとしているクラスの中、席に着く。一年で同じクラスだった赤司君がすでに隣の席に座っていた。黙々と小説を読んでいる。
「おはよう赤司君。また同じクラスだね。今年もよろしくお願いします」
「あぁ。よろしくな」
一年の頃から特に接点がなかった私達。他愛のない挨拶をして、赤司君の目は小説に戻っていく。彼は一年の頃からよく本を読んでいたのを思い出す。今は何の小説を読んでいるんだろう。聞いてみよう。
(難しい感じの外国の本だった。まぁ赤司君ならアリか)
☆
「赤司君はよく本を読んでいるね」
「ん?そうかな」
休み時間で皆がおしゃべりで夢中になっている中、隣同士、席に座っている私と赤司君は別世界にいるみたいだ。彼の発するオーラか何かがそうさせているのだろうか。
「でもスポーツもすごい上手だよね」
「本を読んでいるやつは運動は苦手でないといけないのか?」
何気なく体育の時間を凄さを思い出し言ってみると、真顔でこう聞いてこられた。
「いやいや、なんでそうなった!文武両道はすごいなっていってるの」
「ふうん」
「ふつースゴイんですけど…えっ何?私が変なの?」
彼は「そういうものなのか」と半分くらい納得したような顔をした。彼は文武両道が当たり前だと思っているのだろうか。
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「私でも読めそうなオススメな本ってありそう?」
赤司君は難しい本しか読んでいない気がするが、これまで読んだ中で私に向いている本なんか知ってるんじゃないか?と期待して聞いてみた。赤司君は小説を読みながら私を横目でちらと見る。
「図書室に行けばそれ相応の本があるよ」
「なるほど。そっか」
そうだよな。ここ、中学の図書室だったら、それなりのしかないよね。私が読むのに向いている本は、図書室にあるのだ!
「よし。行ってくる!」
「…あぁ」
☆
「赤司君って犬と猫。どっちが好き?」
授業が終わって、彼が小説を出す前に話してみた。私は頬杖をついて、隣の席に身をのりだしている。今度は何気ない会話にしてみた。私的には赤司君は犬を選びそう。自由気ままな猫って好まなそうな感じがする。
「躾のなった犬」
面食らった顔の赤司君は悩むことなく、即答で返事をした。躾がプラスされていた。確かにそう言われればそうか。
「へー。そうだよね。よく人を噛む犬とか嫌だもんねえ」
「極端な事をいうね」
そして今度も本を取り出すわけだが、今日はまだタイトルを聞いてなかった。じーっとブックカバーのしてある本を見つめる。「物好きだな」と赤司君。
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「赤司君も図書室にいくんだね」
赤司君のおかげで暇な時は図書室にいくようになった。今日も本を読みに来た訳だが、ばったりと図書室で鉢合わせしてしまった。小声で話しかける。
「あぁ。教室は騒がしいからな」
ふと、手に持っている本を見る。『中学生からの帝王学』……そんな本もあったんだ。赤司君は人の上に立つ仕事がしたいのかな?と想像を膨らませていく私。赤司君も私の手に持っている本を見ていた。暫くして、ぷっと吹き出していた。
『やさしい犬のしつけ方』
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「うちの学校のバスケすごいって今知った」
「遅くないか」
「赤司君がそのバスケ部のキャプテンなんだってね」
お互い本を読んでいる中、が話を切り出すのがいつものパターンだ。
がバスケの指南書を読んでいたから、何かあったな、と思った。そういう事だったか。
「あぁ」
「すごいね!!」
よく分からないがは興奮していた。きらきら光っている目が、いつもより輝きをましてこちらを見ている。悪い気はしなかった。
「あんまり気負いすぎないで頑張ってね!ああ私に出来ることがあったら言ってね。吹奏楽部だけど」
にこにこと自分の事のように嬉しそうだ。…何故嬉しそうなんだ?戸惑っている内にが首を傾げてこちらをじっと見つめてくる。その人を真摯に見つめるきらきらしい目線から逃れたくなった。早く返事をしなければ、と口を開いた。
「に頼むことはないよ。気持ちだけ、有難う」
「そう?」
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赤司君は二年生でキャプテンに選ばれたというのに、ちっとも嬉しそうでないし、緊張している訳でもない。当たり前だというように堂々としていた。…人の上に立てる人は、そういう心構えなのだろうか。すごく不思議に感じてしまった。
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赤司君がしきりに机の中を見たり、カバンの中を見ている気がする。
もしかして次の時間の教科書でも忘れたのかな?すごい困っている顔をしているし(この世の終わりみたいな)赤司君にこっそり聞いてみる事にした。
「赤司君、あの、違ってたら悪いけど…教科書で困ってる?」
赤司君はこちらを向き、心底驚いたように目を見開いた。そして項垂れるように、頷いた。そんな深刻な顔を向けられるとは。私はすぐ彼の机と自分の机をくっつけた。赤司君は戸惑ったような視線を向ける。
「一緒に見よう」
「…あぁ、すまない」
こんな申し訳なさそうな顔、初めて見た。まじまじ見る暇もなく、次の時間が始まった。そして、皆に私が教科書を忘れたと認識されることになる。そ、そりゃあ日頃の素行とか、彼には劣ってるけども…!!
☆
手を上げ立ち上がったと思ったら、赤司君。言った。言っちゃった。
「僕が忘れました」男である。
しかし先生は笑いながらバッサリとそれを切り捨てた。
「赤司は冗談も言えるんだな。君が忘れ物をする訳ないだろう?を庇うんじゃない」
周りの子も笑う。えっそんな事ってありなの?私は赤司君を見る先生の目を変だと思った。どうして正直に言ってくれたのに「赤司はそんなことしない」と言えるの?それを聞いて力なく座った赤司君の顔が愕然としていたのを、私しか見ていないのだろうか。
赤司君は先生の言葉に傷ついたに違いない。授業が終わったらなんと言おう…。そう思ったことにより、赤司君のノートの取り方をみようと思って意気込んでいた今回の授業は、あまり身に入らなかった。彼の顔も、見れなかった。
★
「すまない。」
「え?いいよいいよ。それより先生ったら酷いよね…」
授業が終わり、赤司君から謝られた。それに手を振りながら、先生が出て行ったのを確認して、先生の悪口を言った。
「どこが、だ?」
「え?」
返ってきたものは、私が受け止めようとしていたものと違っていた。…悲しくなかったの?彼の顔を見ると、いつものような表情で、ケロリとしていた。傷ついてなんかいなかったのか?そう考えてボケーとしている間に、赤司君が顔をずいと近づけてきた。私はおもわず身を引いた。
「そんなことより。借りを返させてくれ」
……!?
☆
「いいってば!こんなッ!」
「もっと高価なものがいいのか?」
「違うって…!!」
私の赤司君像がよく分からないものになっていく。だって今の彼はあまりにも必死で…私にテディベアを抱かせようとしてくるもの。
…ふわっふわの、可愛いやつ。「家に来ない?」と言いたいのはやまやまだが、高価な物を受け取るわけにはいかない。
「あっ!!じゃあ友達になってくれる?それでいいよ!これで貸し借りなし!ね?」
これだ、という名案が浮かんだ。これいいんじゃない?何も受け渡しがない!しかしすぐ首を振られる。あ、次に辛辣な事を言われそう。私は身構えた。
「却下だ。もう君と僕は友達だろう」
「えっ」
脱力。そして、少し顔が熱くなった。
赤司と仲良くなる。