君しか見てない!

 朝早く登校する。職員室で図書室の鍵を貰い、開けなれた扉を開く。ふわっと香る本の匂いに自然と顔が緩む。図書委員の特等席であるカウンターに腰を下ろすと、カバンから本を取り出した。しおりを辿ってページを開く。その本の中身はハウトゥー本。それも恋愛のものである。私は恋に悩める女子だった。片思いの相手はあの赤司征十郎君だった。あの雲の上のような存在の赤司君だ。

「新刊入ったぞ〜」
「有難う先生!!」

 そうだ、今日は新しい本達が届く日だった。帝光中では毎月一回は新刊が入ってくる。リクエストも受け付けているので、生徒それぞれの希望に沿った本も入ってくる。…図書委員という役職をフル活用して、私は毎月リクエストした本を朝一で手に取る事が出来るのだ。
 ダンボールをもってやってきた先生に礼をいうと、私は長机におかれたダンボールを開け、中を物色。ネットで見た表紙が目に入る。

「あった。男と女の駆け引き!」

 それを胸に抱くと、早速借りる事にした。カウンターに戻って、パソコンですでに施されたバーコードを読み取る。…早く読みたい所だが、先ほどから読んでいた、既に借りてある本を読まなければ。そう意気込んでいた所にガラガラと再び扉が開く音。顔を向けてみたら、驚愕で机に手をついて立ち上がった。

「あああああ赤司君!!」
「おはようさん」
「お、おはようございます!!」

 赤司君が図書室に入ってくる。その爽やかな顔を私だけにお向けになさっている…!?まさか、こんな朝に来るとは思わなかった。いつもは昼とか、休み時間に来るののに。心臓に悪い…!!嬉しい意味で!!赤司君は慌てふためく私に構わず、長机に近づく。あ、と口を開けた。

「もしかして、新刊、見にきたの?」
「あぁ、リクエストしてたものが届いていると聞いて」

 赤司君はバスケ部の朝練があるから早く登校したようだ。もうスポーツウェアを着ている。彼はダンボールを覗き込んだ。中は私が本を探すため、ぐちゃぐちゃであろう。私は後悔した。なんてガサツな女だ、と彼は思っただろうか――。次に赤司君は固まっている私の方を見た。

「本を借りるために君は、こんな朝早くに来たのか?」
「…あ、うん。それもあるけど」
「けど?…そういえば今日は君の当番の曜日じゃないな」
「う、うん!先輩に頼まれてきたの」
「断らなかったのか」
「…うん」

 確かに押し付けられたようなものだけど、私も好きでやってるからいいのだ。それに赤司君に会えたし、さらにラッキー。…結構当番を代わるの、頼まれるけど、その分だけ毎日ここに通う赤司君をよく見られるのでOKなのだ。当の赤司君は私に呆れているような目を向けるのだが。その目にデジャヴを感じる。…赤司君の事を語っている私の話を聞いている、同じ図書委員の黒子君の目と同じだった。

「好きでやってるからいいんだよ」
「そうか…。ならいいけど」

 黒子君の想像や、赤司君の目線を消し去るように手をばたばたさせた。それが功を奏したのか、赤司君は再びダンボールに目をやった。手をダンボールに突っ込んだかと思えば、すぐに分厚い難しそうな本を中から取り出した。おもわず「おお…」と声をあげた。よくあの中から一発で出せたなぁ。

「俺も借りようかな」
「じゃあ図書カードを」
「はい」

 赤司君は準備がいい。いつのまにか自分の図書カードを用意しているのだから。彼の手に触れるか触れないくらいでカードを受け取る。意識しているのは私だけだろうか。パソコンでカードを読み取ると、カウンターに置かれた本のバーコードにバーコードリーダーをかざした。ピッと音が鳴る。そしてプリンターからギギギという音と共に返却日が印刷された紙を取ると、本と一緒に紙を渡した。

「有難う」
「いいえ」

 あぁ赤司君が少しだけ微笑む。やってて良かった図書委員。私も微笑み返す。

「そういえばさんは何を借りたんだい?」
「あぁ、これこれ……ッ――!?」

 ぽかぽかしている中、何気なく赤司君に聞かれたので、何気なく私は自分のカバンから本を取り出した。あ、と気付いた時には既に遅し。私は「男と女の駆け引き」をじゃーんと取り出していた。赤司君をなんとコメントしていいのやら、という顔にさせた。私は口をぱくぱくと開いたり閉じたりを繰り返した。

「…恋を、しているんだな」

 無言で頷いた。…貴方にですけど。

気まずい。
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