本当に変わっただけ?
こんな私にも大切にしたい人が出来た。まだ付き合ってもいない人だけど、学校の隣の席で、グループになった時大体きょどる私にフォローしてくれる優しい人。今度、授業で環境問題を調べてグループで発表する。人付き合いが苦手なせいでもっとも苦痛とする作業だ。私が頭を抱えたい時、彼はなんと、一緒に図書館に行って調べようと誘ってくれたのだ。嬉しい。嬉しい。
「やばい、もう死にそう」
「なら死ぬか?」
「う〜ん!赤司と彼を比べると、本当に彼って紳士だなあって思うよ!」
そう言うと赤司はへえ、と気の無い返事を返された。興味がなさそうである。
この喜びを幼稚園からずっと一緒の腐れ縁である赤司に報告したらこのザマであった。やはり伝えるべき人間を間違えたか…?いやでも友達いないし、仕方ないか。
めげずに赤司に恋バナをすることにした。
「本当彼に出会えて幸せで、彼を思い出すたびにベッドで枕抱いてバタバタしちゃう。それぐらい幸せだ。こんな感覚に出会えるって本当恋ってすごいよね」
「はぁ」
「『俺がをフォローするから』とか笑顔で彼に言われたんだよ!?これはもう期待してもいいんじゃないの!?…って思うわけよ」
もはや自慢をドヤ顔で言っているような気もする。それでも赤司は、一応私の話を聞いてくれているようだ。時折相槌をうってくれる、呆れ顔で。
「…赤司も恋したら、私の気持ち、分かるんだろうねぇ」
そして上から目線の言葉。なんて、嫌な奴。これでも自覚しています。
想像してみよう。いつも余裕そうな赤司の顔も、恋をしてみれば青くなったり、赤くなったりするのかもしれない。女の子の一言一言に幸せになったり深く傷ついたり、普通の中学生らしくなるのかもしれない。…なんだか赤司が愛すべきものに見える不思議。
だが、当の赤司は、先ほどから表情を変えようとしない、中学生らしくないやつだ。いかにも冷めた目線を私に刺しながら口を開く。
「…なぁその男、お前が可哀相すぎて構ってやってるんじゃないのか」
「え」
赤司の言葉は確実に私の胸をえぐってきた。いやいや、ないない、と思いたいのに、思うべきなのに、体の熱は一気に冷めていく。頭の中で「そうなのかもしれない、いや、でもマイナス思考はよくないよな…」と思案しては隅っこに追いやっていたもの。それが他人の口から指摘される。一番私を知っていて、尚且つ言っている事が大体正しい赤司だからこそ、言われて深くくるものがあった。
「…ううん…そうかもしれないよね。…ごめん、はしゃいじゃって」
こういうものは、自分の胸にじっと秘め続けるものだよな。他人を巻き込むべきものではなかった。私はへらっと笑って、赤司に謝った。
もし彼が私の事をそう思っているなら、そこまでの付き合いだと思う。でも期待していたいし、好きになってほしいんだ。だからなるべく、変に意識しすぎない方がいいし、変にテンションをあげない方がいい。
調子に乗って、本当にごめんなさい。
「いや、いい。…こんなお前に付き合えるのは、俺だけだと考えておくんだな」
「…ん?うん」
赤司はそう言うと、くしゃりと私の頭を撫でた。やはり余裕そうな表情だ。
確かに、赤司は脚光を浴びるようになっても、こんな私と変わらずに付き合ってくれる。…感謝すべきは近くにいる人間、か。赤司が傍にいるのが当たり前すぎて、有難味なんてあんまり感じないけど。私は撫でられた頭を押さえつつ、上を見上げた。
赤司のいう事も外れることがある。
私は彼に告白された。勿論OKして、晴れて彼と付き合うことになった。
赤司はその頃から私を避け始め、キセキの世代と呼ばれるようになっていた。…あんな事言ったくせして、思春期特有のアレで私と付き合うのが恥ずかしくなってるじゃん。遠目から眺めるだけになってしまった彼の背中は孤独に見えた。だけど、私は声をかけない。冷たくあしらわれたら、と思ったら足がすくんでしまう。声をかける勇気も私には無かった。
「どうした?何かあったのか?」
「ううん、なんでもない」
私は全てに目を瞑って、彼に手をひかれた。
彼は優しい、一緒にいてドキドキする。でもふとした時に、赤司の隣の心地よさを思い出してしまう。それは彼が私に触れるとき。赤司はこんな風に私に触っていたな、と違う男を思い出していた。
赤司は京都に行ってしまった。バスケの強豪校らしい。それぐらいしか、もう赤司の事を知らない。
私は彼と一緒に近場の高校へ進学した。彼に駄目な部分を見せたくない私は、外面の優しい女の子を演じてしまう。怖がりだから。嫌われたくないから。好きなのに、本当の自分を出せない、弱虫。
彼と話すたび、私はもっと酷い人間なんだよ!と言ってしまいたくなる。嫌な事があるたび、何かをのろいたくなるんだ。優しくなんかない。他人の粗探しをして、自分を落ち着かせたい人間なんだ――。
**
『そっちに帰る機会があるから、久しぶりに会わないか?』
あの時と変わらないアドレスからメールが来た。今更、どうやって話せばいいのか分からない。それでも、赤司が会いたいと言うのなら、行こう。そう思った。返事はあの時の調子の文面にしておいた。
なんとなくよそ行きの服を着て、待ち合わせ場所の駅まで着いた。時間は十分ほど前。お気に入りの音楽を聞きながら赤司をホームで待つ。行き交う人の髪を見る。黒、黒、茶黒、茶…。色鮮やかな赤司の髪の色は目印になる。来たらすぐ、分かるんだろうな。
そして目に入ってきた赤い色。私は慌てて音楽プレイヤーの電源を切り、イヤホンを外した。
「久しぶり」
「うん、久しぶり」
何年も話さなかった事なんて感じさせない口調。嬉しそうに目を細める赤司。それに私はほっとする。目に付いて気になった事をおもわず口に出してしまった。長かった前髪が短くなっていた。
「…イメチェン?」
「あぁ、前髪か。ちょっと前に、煩わしくて切ってしまってね」
「…赤司?」
「ん?」
なんだか少し、雰囲気が違うような…。高校デビューして、イメチェンしたおかげなのだろうか。そう考えたら納得できた。すぐに首を振って「なんでもない」と言っておいた。
「…懐かしいね、一年くらいしか経ってないのに」
「僕に会えて、お前は嬉しいか」
「私は…、うん、そりゃあ」
疎遠になっていたのは、嫌いになったからじゃないと分かるから嬉しい。思春期のアレだったんだな、きっと。またこうして仲良く、小突きあいながら話せる事に、心から感謝したい。
「…彼氏が聞いたら、なんていうかな」
「あー…彼氏…ね、…自然消滅しちゃったんだよね」
「そうなのか」
嬉しそうに笑う赤司。やっぱり変わったんだ。感情をほんのり出して笑う所は変わりないんだけど…、こんな所で笑うようなやつだったか。
「酷いな、笑わないでよ」
「すまない、嬉しかったから」
赤司を小突こうと軽くふりあげた手をとめた。それを見た赤司は、おかしそうに目を細めた。
「どうして手を止めるんだ?」
「あか、し?」
「昔みたいに僕に触れないのか?」
しばらく会ってなかったら、豹変したのも分からない。 13.09.09