白黒世界
※同性愛者の方を侮辱するような表現があります
※赤司が自殺します
『僕達の関係が父にばれた』
征十郎からの最後のメールだった。俺はその文面を何度も何度も読み返して、今日も吐きそうになりながら返事のメールを送る。
『征十郎、お前の父さんの部下の人が来て、もう三日もお前に連絡がとれない。元気なのか?学校に行けているか?』
送信ボタンをタッチして、すぐに『このメールは送信できませんでした』の文字がスマホに浮かぶ。俺は座っていたベッドに倒れこむ。天井を見上げる。
三日前、突然家に黒服の人がやってきた。その時家には俺一人しかいなかった。今思えば親がいれば大事になってたかもなぁと人事のように思えてしまう。
黒服の人は汚らわしいものを見る目で「征十郎様との関係を断ち切ってもらいたい」と言ってきた。「君たちの関係は不純だ」「女性と付き合うべきだ」と個人の価値観を押し付けて帰っていった。俺は震える足で自分の部屋に駆け込むと、すぐスマホを握った。メールが一件来ていた。それが征十郎からの最後のメール。
俺達は男同士で付き合っていた。帝光中時代に俺が征十郎に片思いをしたのがことの始まり。でも俺は男同士だからというのもあり、彼を見つめるだけでよかった。彼が誰と付き合おうと、何もいわない。ただ、彼の良い友達という立場から、彼を見守るだけで幸せだった。
そんな距離を壊したのは征十郎だった。
「お前、俺の事好きなのか?」
聡い征十郎は俺の目線に込められた感情をすぐ察知した。真顔でそう聞かれたことに、目の前が真っ白になったのを覚えている。顔が強張り、普段通りに表情を正そうとしても普段通りを見失うわ、そもそも筋肉が言う事を聞かないわ。
征十郎はそれを見て、きれいにくすくすと笑った。
「付き合ってもいいよ」
まるで興味本位、弄ばれてるのかな、という気持ちはよぎったのだが、彼の誘いを断る術はなかった。俺達はそれから、みんなに秘密で付き合うことになった。隠れて放課後、部活の後に手を握ったり、耳元で囁いたり、二人で出かけたりもした。征十郎は普通の男なんだな、と付き合っていく程あの「神々しさ」より「平凡さ」が目立っていった。二人でマジバやラーメン屋に行く度に、何気ない話をする度、彼は普通の少年ぶりを垣間見せる。信頼されているのだろうか?そう錯覚して、得意げに胸を張ってしまいたい程。いつしか二人でキスをするような仲にまでなっていった。
それなのに、どうして突然あんな事を言ったんだ、とか俺の事本当に好きなの?とか答えが怖くて聞けずじまいのまま、音信不通。自分の馬鹿さ加減に笑えてくる。
京都に行って、征十郎の家に押しかけろよ、俺。一回遊びに行ったから、行こうと思えば行けるはずだろ。
だけど身体は動かない。きっと追い返される。警察もよばれるかも。でも、声を振り上げて、征十郎を呼んで、手を伸ばせば、あいつも家なんか飛び出して俺の手をとってくれる――?イメージならうまくいく。だけど現実は分からない。あいつにとって俺は何だったんだろう。呼んで、応えてくれるのだろうか。それほどまで、あいつは俺を想っているのか。
でも俺は、征十郎が好きだ。必要だ。せめて、一目でもいいから会いたい。そして、話もしたい。征十郎の俺への気持ちがなくなっていたのなら、潔く帰ろう。でも、もし俺の事を好きでいてくれたのなら――。逃げる?…それでも彼を想って身を引く?…どうとでもなれ。
**
高校に入学して早々に京都へ来ないか、と誘われた。京都駅で落ち合って、散策をしてから赤司の家に泊まらせてもらった。征十郎の祖父母の家だった。そこでは彼の友人として接してもらったのを覚えている。
(確か、こっちに歩けば…)
学校を休んで、京都まで来た。記憶を頼りにバスを乗り降りして、見覚えのある町並みを進んでいく。後はあの大きな家を見れば分かるだろうと思う。
その内瓦屋根の外壁が出てきた。あの家と広大な庭を囲ってたものだ。これを辿れば…。曲がり角を曲がったときだった。
「へ…」
曲がって目に入った光景は、黒白の縦縞の幕が外壁一面を覆っていたものだった。誰か…死んだのか?あの品の良いおばあさん?頑固そうなおじいさん…?それとも。
俺は門へ向かって走っていた。門は開いていた。中からはお経が読み上げられている。線香の匂いが漂う。そんな、まさか。そのまま屋敷の敷地に入ろうとした。俺は地面に投げ出されていた。
「貴様…!!よくこんな日にのこのこやってこれたな!!」
知らない人、だけど黒いスーツを着ている人。激怒している。なんでこの人は怒っているんだろう。見ると、門の両側には警備をしていたのか二人の黒服の男が立っていた。もう一方の人も眉間に皺をよせて、汚いものを見る目をする。口の中に鉄の味が広がる。ごくりと唾を飲んだ。
「誰の…お葬式なんですか」
「帰れ!!顔を見せるな!!」
「いやです…。征十郎に、会わせて」
「坊ちゃんの名を口にするなッ!!」
「おい、落ち着け」
「うるさい!黙ってろ!お前がいなければ、坊ちゃんは!」
「俺…が…?」
「自殺だったんだよ!!お前のせいで死んだんだ!!」
**
「自殺」 「俺のせいで」 「死んだ」 「征十郎」 「いない」 「もういない」
言葉が駆け巡る。堂々巡り。気がつけば俺は家に帰っていた。逃げてきたのだ。信じたくなかったからだ。確かめろよ。逃げる背中まで黒服の人に罵倒されていた。
「泣かないんだな」
涙は不思議と出てこなかった。やはり現実味がない。夢じゃないか、今までの、征十郎と過ごしてきた日々も。
「ごめん」
征十郎の心地よい声に責められ、謝ることしかできない。そうだ、死のうか。死のうかな。何もする気が起きない。何もしたくない。
「、俺はお前を恨んでない」
「許すな、慰めるなよ。俺を、責めてくれ…」
「」
何かに包まれる感覚を微弱ながら感じた。
「俺はここにいるよ」
「征十郎…?」
半透明の征十郎が俺に寄り添っていた。
あとがき
この後は幽霊赤司とイチャイチャ生活をします。ほかの人には赤司の姿が見えないので、主人公がいろんな人に心配されます。13.10.27