きれいだよ
「征十郎さん、まだ彼女さん、連れてこないつもり?」
通いなれた病室を訪れると、決まってはこう言った。僕は何も言わずに隅に置かれていた椅子を彼女の隣に引く。彼女はいつも本を読んでいる。日に焼けていない白い肌に、白い病室が嫌なくらい綺麗に調和している。僕は椅子に腰掛けると、言葉を返した。
「作るつもりなんか無いと言っているじゃないか。僕の婚約者は君だ」
そう言うと、やはりにくすっと失笑をされた。「聞き飽きたわよ」は文庫本のページを捲りながら、優しい口調で話す。
「僕だってそれは聞き飽きたよ。…君の考えに付き合うつもりはない」
学校帰りに寄った本屋で買ってきた本を鞄から取り出す。はそれを見て、嬉しそうに微笑む。
「どんどん増えていくわね」
彼女は僕から本を受け取ると、脇に置かれた本棚に目を向ける。本棚には七十六冊の本が入っている。本棚は黒色の大きいものを頼んだ。三段式の本棚の真ん中の部分にしか本が埋まっていない。彼女が入院してから毎日、僕は本を贈っていた。
大切そうに渡した本を抱える。僕はそれじっとを見つめる。
「私のリクエストにいつも応えてくれて有難う」
「…あぁ」
彼女が希望する本は、いつも『素敵な人物が登場する本』だった。彼女が抱いたそれも、自らの思想に基づいた行動を起こす青年が主人公だ。毎日一冊本を買っては、それを読破して、確認している。彼女の本棚の一段は、鮮やかな色をしていた。
「後で読ませてもらお」
「」
「征十郎さん、早く彼女を見つけてくるのよお。私が死ぬ前に」
「!」
僕は以外、いらない。それなのにいつもいつも、どうして他の女に目を向けさせるような事を言うのだ。今日に限っては、冗談を言うように、死ぬだなんて言葉を口にした。僕はおもわず、彼女を呼ぶ声を荒げる。
「征十郎さんは綺麗だから」
そうしたにも関わらず、はいつものように僕を綺麗だと言う。
「綺麗だから、綺麗な女性と付き合うべきだと思ったの」
どうして私が許婚なんでしょうね。困ったことを呟くような口調だ。
「私は貴方の隣に相応しくない。生きようともがいたら、もがく分だけ醜くなっていくわ。…綺麗で、これからもずっと貴方と歩んでいける人と、幸せになってほしいのよ。大事な征十郎さんだから、そう思うのよ」
だから、どうして怒るのかわからない。彼女の目はそう言っている。
「私は貴方が好きよ、征十郎さん。貴方も私の事が好きだというなら、安心させて。私なんかに囚われず、貴方の隣にいるべき女性と幸せそうに並んで見せて」
「僕の気持ちは、無視するんだな」
「あら、そうした方が貴方にとっても合理的な生き方だと思うけど」
生い先短い婚約者なんか忘れろ。他の、僕よりも生きそうな女と、結ばれろ。そうすれば、僕はあっけらかんとした人生を送られる。彼女の死を悲しんで、打ちひしがれる時間も短くなるだろう。僕は、幸せな人生を送れると思っている。彼女の思う、美しい人生を。
「そうしてくれたら、私、死ぬ恐怖なんて無くなるわ。貴方の人生の行く末を安心出来るの。これが、私への『愛』だと思わない?征十郎さん」
優位に立つ赤司がなかなか書けない。