隠したままではいられない
「さつきちゃん、恋バナをしよう」
「なぁに?藪から棒に」
「私達、一度もそういう話してないと思ったからね、女の子なのに」
休み時間。用事がなければ桃井とは必ずどちらかの席に行っては他愛の無い話をするようになった。
今回はが言い出した「恋バナ」を話さなくてはならないようだ。腕を組み、冗談のように真剣な顔になったに桃井は吹き出す。
「ちゃん、らしくない」
「そんなっ大事だよ!私もしかしたらお邪魔かもしれないんだから」
「そんな事ない」
「本当に?」
おかしそうに微笑む桃井を見て、はじっと目を細める。…少しして、からかうように口をにっと開く。
「…ちょっと意地悪だったかな?」
「ふふ、いつもじゃない…でも本当よ」
「ん?何が?」
「邪魔なんかじゃないって事よ…彼氏なんていないし、今好きな人もいないもの」
桃井は、の机にのっている手を撫でた。このままが続けばいいのに。そう思った。
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桃井は早足で家まで歩いていた。呆然とした表情で、まるで何か知ってはいけない事を知ってしまったようだ。
先ほどまで彼女はと一緒に歩いていた。いつもの部活帰り、仲良く二人で。
しかし、いつもと違う所が一つだけあった。何だかの表情が固く、緊張しているように見えた。
だから桃井はいつも彼女がしてくれるように、彼女を気遣った。
そうしたら、彼女は桃井にとって信じられない言葉を口にしたのだ。
「私さつきちゃんが好きなの…愛してるって意味で」
冗談を言ったような顔ではなかった。おもわず桃井は歩みを止め、目を瞬かせた。いつものじゃない。仲の良い友人ではなく、他人を見ているような感覚に陥る。時が止まってしまったのではないかと思った。
「…ごめん、私女の子なのに…ずっと前から好きだったの」
はそんな桃井の表情を見て、本当に申し訳なさそうに目を伏せた。
桃井は同性愛の事など考えていなかった。一方はずっと彼女を意識していた。立ち止まっている桃井に、はぽつぽつと、謝るべき事を伝える。
クラス替えをして真っ先に声をかけたのは、桃井が好きだったからだという事。好きだったから、友達になればもっと仲良くなれる、もしかしたら好きになってもらえるんじゃないか。という気持ちを抱いて、近づいた事。
「他の男子みたく貴女を狙ってたの、私はさつきちゃんが女の友達が欲しいって気持ちを利用したんだ」
男だったら。そうやって、恋愛感情を絡めて仲良くなろうと近づく事はある。
桃井はそういう男達を、あまり相手にしたくなかった。いやだと思っていた。そんな事をはやったのだ。好きだったのなら誰しもそうするだろうが、は罪悪感を感じながら仲良く接してきた。彼女は自分の事を「友達」だと思ってくれているのに、自分はそうは思っていない事に対して。
「でも、無理だよね。ごめんね」
桃井の固まった表情から、は勝手に悟った。彼女にこの想いが受け入れてもらえないと。らしくない、今の彼女は桃井にはいつもより小さく見えた。
あんなに堂々と、変な噂を抱えていた自分と付き合ってくれたのに。…友達として。気がつけば桃井は自分の家に着いていた。力なく家のドアを開く。玄関には、幼馴染の大きな靴が乱雑に脱ぎ捨てられていた。
桃井は青峰と話す気分ではなく、黙って自分の部屋に戻ろうとした。
「おい、さつき!無視かよ」
「…青峰君」
「…どうかしたのか?」
居間から出てきた青峰をぼんやり眺める。そして、自分も彼のように男だったら彼女の思いを快く受け止められたのだろうか、と思った。
そんな様子の桃井に、青峰はどうしたものか、とぼりぼり頭をかいた。
「喧嘩でもしたのか?ちゃんと」
「っ!!」
青峰が発した言葉は、桃井の胸にクリーンヒットする。桃井は、居心地が悪そうに、視線を逸らした。
「あーま、なんつーか…早めに謝っとけよ?」
「…うん」
喧嘩だと判断した青峰は、青峰なりに桃井を励まそうとしていた。
実際はから告白されたのだが、当人達しか分からないだろう。
「…ちゃんを紹介してもらおーかと思ってたけど、出直すわ」
「それは駄目!」
「あ?」
桃井はおもわず口を覆う。今、自分は何と言った?(あぁ、私―…)桃井は自分の感情が分かり、ぼろぼろと涙を流し始めた。
青峰がぎょっとしているのも構わず、自分の部屋に駆け出していた。