君が望む私は、どんな私なのか
化粧をして、家にある一番ましな服を着てきたが、繁華街にいる自分が酷く不自然だな、とは思った。彼女は今、人ごみの中を進んでいた。人の目が気になるが「気にしない、気にしない」と心で唱えながらネットで検索した、ファッションビルまでたどり着いた。
ある不安が胸につのるが、きゅっと口を結び、は中へ入っていった。
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「ただ、ちゃんはそのままでいいのになって」
「そう、かな…?」
「そーッスよ!今のままが一番ッス!」
黄瀬と話す。それはとても楽しい。だが、ほんのたまに、ぽろっと黄瀬はを見てそんな事を言った。自分を見る目が何故か不安そうに見える。はまた自分勝手に思案した。聞く勇気はなかったからだ。
(もしかして前の私の方がすきなのだろうか)
(地味で暗くて、独りだった私が好きなのだろうか)
は自分に自信を持ったら告白の返事を出そうとしていた。(勿論YESの)自分が好きだと思う、可愛いと思える自分になれたら…。そう思っていた矢先の黄瀬のこの態度である。はどうしたらいいのか分からなくなっていた。
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(…来て良かったのかな)
ビルの中の女の子のオーラに押されながら、目当ての店までたどり着く。派手ではなく、可愛すぎなくて、可憐な服が特徴の店だ。セールすると聞いて、おもわず待ちきれず来てしまったが…。困ったように店内をうろつくのもつかの間。
「…かわいい」
の表情が、女の子のものになった。
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服を買って、そのまま着ていった。…行きに着ていた服が入っている、あの店の袋は可愛らしいものだった。最近の服屋は袋にも力をいれているのか…、とは初めて知った。シャツの上にニットを着て、下はふわふわのスカート。黒いタイツにパンプスを履き。カバンも買った。トータルコーディネートを揃えたので、今の自分は別の誰かに生まれ変わったように感じた。なりたかった自分。…彼は、この自分を受け入れてくれるのだろうか。…きっと、大丈夫だ。きっと。はそう言い聞かせて、自分を落ち着かせた。「可愛い」と言ってもらえるはずだと思った。
「あの」
駅まで向かう道を人の流れのまま辿っていたの意識が声をかけられたことにより引き戻される。はっとして振り向くと、ちゃらちゃらした男が自分を見ていた。
「時間あるかな?君、もしよかったらお茶でもしない?」
「え…あ…」
男はにこにこと自分を見ている。人生初のナンパである。は戸惑う。の態度を見た男は、戸惑っているのをいいことにの腕を掴む。
「え…!」
「見るからに一人だし、まだ遅くないし、いいよね?俺奢るからさ」
「や…あの…」
「いいから、いこいこ」
男の自分の手を引く力が強い。は言われるがまま、男の後をついていく形になる。周りの人を見るが、皆我関せずと、前を向いて歩いている。
(ど、どうしよう…こ、怖いけど、言えない…)
が、恐怖でうっすら涙を浮かべはじめた時だった。
「おい、アンタ」
「は?」
聞きなれた声が、隣で聞こえた。
「この子、俺の彼女なんだけど」
「…!?おま、黄瀬…」
「走って、ちゃん」
「…!!」
まるでマンガのワンシーンのように、サングラスを外した黄瀬が、自分の腕を掴む男の手を振り払う。そして自分の手を、今度は彼が掴んで走り出した。彼の足は速くて、手を引かれる感じで、外れた道を走っていく。心臓がドッドッドッと、早く、強く鳴るのが分かる。…彼と走っているから。
そして、人のあまりいない道まで、追われることなくたどり着いた。あまりにも走るのが久しぶりで、は胸をおさえて息を吐いた。黄瀬はあまり息が乱れていない。
「…黄瀬君、どうして…」
「丁度暇だったから来てた…」
まさに運命だ。はくらくらしそうになる。つないでいた手は離れたが、繋がっていた箇所をおもわず触れていた。
しかし、黄瀬はさっきから黙ったままである。…何か自分がしたのだろうか。はおもわず、黄瀬を見上げる。
「…黄瀬、君?」
「…ちゃん、そんな格好しちゃ、駄目だよ」
「え…」
黄瀬が首を振った。自分を否定されたような気分に陥った。思考が凍りつく。
「そんな、周りの女の子と同じ格好して…俺をどうしたいの!?」
には、ここに留まり続けて、真実を知る力はなかった。まだ、そこまで自分が育っていなかったのだ。は逃げ出していた。その先は―。
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ちゃんが変わっていく。それは喜ばしい事だった。俺以外に、話す相手が出来る…。いい事じゃないか。
独りで平気そうな彼女だったけど、そんな事はなかった。勝手に俺がそう思っていただけで、本当は弱い女の子だった。
でもそんな子が、俺と話していく内に、笑顔になってくれるのが、たまらなく嬉しくて、可愛くて、好きで。
彼女が努力しているのに、俺は彼女を独り占めしたかったのだ。俺だけに笑っているだけでいいのに、なんて思考が生まれていた。
他に好きな奴でも出来たのかと思ったりもした。
…だから、変わらなくたって、いいと思ってたんだ。