皆幸せそうでいいね。
※各章死ネタ注意
は恋をしてはいけない、と自分に言い聞かせていたのにも関わらず、一目惚れをしてしまった。
相手は緑間真太郎。何故よりにもよって緑間?が彼とすれ違う度、様子がおかしくなるので(例えば、すれ違った後、首だけ振り向き、じっと彼を見ながら歩いてどこかにぶつかるだとか)周りもさすがに分かったのか、複雑そうな顔で聞くのに対して、彼女は観念したように、顔を俯かせて、赤らませ、こう答えた。
「だって、…イケメンなのはあるけど…それより!バスケかっこよかったもん!」
いつもは知的なのにバスケも出来て、しかも遠くからシュートして外さないとか格好いい!ダンクより何だか繊細そうで綺麗!後占いを信じちゃうとか超キュート!とは色々ぶちまけた。
大概の女は黄瀬や赤司になびくものだが、はすこし変わっているからなぁ、と周りも苦笑いしながら「応援するよ」と言った。これらの人々は、緑間の性格を知っているようだ。
でもその言葉には首を振る。周りの者は思い思い怪訝そうな顔をしだした中、彼女はいつもと変わらない笑顔でこう言う。
「私、見てるだけでいいの」
「それ、辛くない?」
「うん、でも私それで満足すると思う…だから、皆、言わないでね」
彼女の片思いを続ける宣言を聞いた時、友人達はこう思ったという。
『色んなものに貪欲で、肉食系の奴が何言ってんだ』
そう、は欲に忠実だった。欲に従って生きてきたといってもいい。一度食べたいと決めた物は、家族を引き連れ遠出をしたり、並んででも食べ、一度欲しいと思ったものは、即買いに行ったり、お金が無ければちゃんと小遣いを貯めてまでして買ってくる女だった。
それは恋愛に対してもいえる事だった。一度好きになった男は、ふられるか、勝ち取るかするまで猛アタックする女であった。
だからこそ、のその笑顔に疑問を抱かざるを得なかったが、彼女は「何も聞くな」というように、威圧感を漂わせて笑っていた。だから誰も何も聞けなかった。
こうして、彼女が飽きるまで片思い続くように思えたが、それに変化が起きた。
知らない間に入れられた委員会の仕事で緑間と会ってしまったのである。
は図書委員になっていた。休み時間に図書館にいって、貸し出し作業の手伝いをする。ゆるい仕事だ。
緑間は、大体昼はここにいた。その切れ長の眼で本を見つめ、長い指で本をめくる。なんとなしに来て、彼を発見した彼女の精神は揺れに揺れていた。
なんてチャンスなんだ、と。ここでアタックしなきゃ、他の誰かに先を越される(ライバルはそういるとは限らない)
だが、しかし彼女にも我慢しなければならない理由があったのだ。理由というか、彼女のプライドの問題なのだ。
でもこんな毎日通っているおいしい所を見つけたのなら、逃がせられないと段々思い始め、ついに彼女は、もうどうとでもなれ、もう、我慢できない!…と、心を奪われたように、自分の熱に正直になって、貸し出しカウンターからずっと見つめていた緑間の所へ歩いていた。隣に腰掛けると、横顔を見つめ、その目はもっと熱に浮かされたようにうるむ。ああ、この人を本当に好きだ。と彼女は感じた。
「本、好きなんですね」
他にも席が空いているのに自分の隣に座られたのだ、どんな鈍感な男でも、何かを感じるだろう。緑間はその言葉に、眉を寄らせてを見た。
その(怪訝そうな)目線にもは、息を呑む。緑間君が私を見てる!
「何なのだよ、お前は」
「貴方を好きになった者です、緑間君」
「…な!?」
今までにこんな経験はまず無かったのだろう。緑間は先ほどの鬱陶しいのだよ、といっているようなオーラをパキャンと破壊させ、本を取り落としそうになった。その様子に案外、恋とかに疎いんだ。可愛い。とまた恋する乙女の眼鏡で緑間を見つめる。
「私、っていいます、…まず私の事知ってる?」
「…体育をいつも見学してる奴か?」
緑間の驚きをさえぎり、まず自分の事を知ってるか確認する。だが眼鏡を指でかけなおしたり、少し動揺している緑間の答えに、少し困ったように笑ってみせた。
「うん、そだよ、よく見ててくれたね…ちょっと体悪くて、私」
「…そうか」
「そんな悪い事したって顔しないで、ただ激しく体を動かせないだけだもん」
彼女はそれだけだから、と付け足して、緑間をじっと見つめる。緑間は緑間で居心地悪そうに視線を動かした。
「私バスケやってる貴方の姿をみて、凄いな、格好いいなって思ってたの、…貴方ってシュートする方が好きなんだなぁって、男の子ならゴールに直接ガーンって決めるのが好きそうだと思ったけど」
「…ダンクは2点で、シュートは3点加算されるからなのだよ」
「そうなの?私ルール、詳しくは全然知らないから…でも1点も違うって事は難しいんだね、それでチームにも貢献してるんだ」
「…まぁ、熱血バスケ馬鹿共とは違う形でな」
そんな事言って、貴方もバスケ好きな癖に。ちゃんとコツコツ練習している彼を見ているから彼女はそう思った。は初めて話した彼にますます心酔していく。それと同時にどうしてこんなにも、彼の事を好きになっていくんだろう?と疑問にも思った。少し考えて「あ」と気付く。私は彼を理解したいんだ。(バスケ部では違うけど)周りにあまり人のいない彼。だけどとても頑張り屋で、でも素直じゃなくて…とても魅力ある人だと思ったから。私は彼の事を知りたいのだ。
は改めて、彼が好きだと実感して、切なく笑った。
「私緑間君そのものもだけど、そういうバスケに対して持ってる、ちゃんとした気持ちも凄くいいなって思っちゃった」
「…っ!分かったような口をきくんじゃない」
「ふふん、本当に分かってたらどうするの?」
「そんな事、ありえないのだよ」
「じゃあ、私じっくりバスケ見ようかなー」
「それは無理だ、女子の見学は禁止されている」
は、放課後、通りかかる体育館から遠巻きにしか緑間を見ていない。女子のギャラリーが出来てもおかしくないのに、と思っていたが、そういう理由があったとは。は、ふむと顎に手をやる。
「…禁止してるのって誰なの?」
「赤司だが、何故それを聞く?」
「いや、許可もらえばいいのかなぁって思って」
「無理なのだよ」
「やってみないと分からないって…じゃ、赤司君を探してくるから、またね!今日の体育館でまた会いましょう!」
「おい」
緑間の呼び止めにも振り返らず、女の子らしく、ゆっくりと図書室を出て行った。
緑間は絶対説得するのは無理だと思った。そして、あの赤司と対峙するであろう彼女を、少し心配している自分に戸惑っていた。暫くして、手に持っていた本に目をうつすと、また本を読み始めた。…本は「風立ちぬ」という。
**
そして放課後、緑間はちらとベンチを見ると、気付いて手を振ってくる女子に盛大にため息をついた。
「何故許可を出したのだよ」
「緑間目当ての女子なんて、なかなかいないから、ついな」
あっけらかんとした赤司の態度にまたため息をつく緑間。そう、は本当に赤司の所に行ってバスケ部(緑間)を見学する許可を貰ったのだ。赤司の目を通しても、は完全に緑間に惚れていると感じたみたいだ。
そこに黄瀬がちょこちょこ来て、を見てから赤司をみた。
「マネじゃない女の子いるんスけど、いいんスか?赤司っち〜」
「彼女は見学だ、緑間の」
「え!?緑間っちの!?嘘ォ!?」
信じられない、といった具合に驚く黄瀬を、殴りたいと思った緑間であった。
は隣に座っている桃井と恋愛談義をしていた。少し、桃井は信じられないように彼女を見ていた。何故よりによって、わがままな占い馬鹿の緑間?といったように。
**
「緑間君と帰れるなんて夢みたい」
「お前が終わるまで見学していたからだろう」
「そーいうんじゃなくてこうなるに至った経緯?…ま、いっか」
「いいのか」
部活が終わると、バスケ部員がニヤニヤしながら彼女送っていけよと言う。何故だ!?とずっと好奇の目にイライラしていた緑間がキレそうになったが、有無を言わさず、いつの間にそこにいたのかが「送られていきます、皆さんお疲れ様です」とかいうものだから、緑間はを家まで仕方なく送っていた。
「今日は厄日だ…」
頭を抱えそうな程疲れきったような表情に、吐かれた言葉。それにムッしては反論した。
「でも占いは4位くらいじゃなかった?」
「おは朝を見ているのか!?貴様…やるな…」
「いや、全然占いは信じてないけど、緑間君が見てるなら〜って見てるだけ」
「前言撤回だ」
「本当におは朝好きなんだねぇ」
なかなか見る目がある女かと思ったらそんな事は無かった。いつもよりさらに眉間に皺のよった顔で緑間は彼女を見る。しかし、そんな目線も楽しむように、彼女は笑っていた。
「私と緑間君って本当正反対、だから惹かれちゃったのかもなぁ」
「…意味が分からないのだよ」
隣では、「私のほほんってしてるけど、緑間君は神経質だし、私運動できないけど緑間君は…」と指折りしはじめた。それを聞くに、本当にこの女と性格が合わないと緑間は思った。
緑間にとって、好きだといって迫ってきた女の子はが初めてだった。なんだか鬱陶しくて、面倒くさくて、むず痒かった。隣で違うところを挙げていたが「あ」と突然立ち止まった。「なんなのだよ」と面倒くさそうにそれに合わせて立ち止まる緑間。
もう空は赤くて、薄暗くなっていた。向かい合うの顔に影がかかる。
「今日は有難う、凄く、かっこよかったよ!」
**
今日も昼に図書室に来て「図書当番に来たんだよ褒めて褒めて〜」とが言ってきた。
「あ、でも緑間君目当てなんだからね!」と緑間にとって訳の分からない言葉も付け足してきた。緑間は自分の習慣を崩したくなくてしぶしぶ図書室に来ている。周りから見れば「何あのうぜえカップル」としか見えないというのに。(図書室では静かに)
「今日も緑間君の事を知るために、おじゃまするね」
周りは「何このカップル爆発しろ」と思った。誤解を招くような言い方だが、緑間はそれに気付かず、「勝手にしろ」と冷たく言った。その言葉に、にこっと彼女は笑った。昼の休み時間が終わるまでは本を読んでいる緑間の隣に座っていた。クラスに戻ると緑間は周りにコソコソ噂され、はというと「やっぱりアタックしてるじゃん」と友達に絡まれた。
「なんだか、運命みたいだったから、つい」
こんな事なかったら、私、本当声なんてかけるつもりなかったんだよ!というの弁解はハイハイ、と軽く流され、どこまで進めれた?と興味は緑間との進行具合に向いていった。は自分の言った事を軽く流されたのに腹が立ったのか、プイとそっぽを向き、「教えない」と言ってやった。周りが残念そうな声を出している中、心の内で早く授業が終わらないかな。と思った。
彼女は勉強があまり好きではなかった。それもあるが、大体はバスケをやっている緑間の事しか頭になく、他の事は考えたくなかった。
**
チャイムが鳴り、担任からの『明日の連絡』が終わり、部活動の時間になった。男くさい体育館にこっそり入ると、桃井が彼女に気付いて手招きする。それに笑顔で頷いて彼女は桃井の横に座った。みると、監督が練習内容を各自に指示しているようだった。いつものように、緑間はそこにいて監督の指示を聞いている。が来たのに気付いていないようだ。
「私なんか眼中にないよなぁ」
「そんなことないよー緑間君、監督が来るちょっと前まで、そわそわしてたんだから」
「ほんと?」
「うん、意識してるんだよ(良い意味でも悪い意味でも)」
「わ、だったら嬉しい」
まさに恋する乙女。その一言でいかにも「とっても幸せです」といったように頬を染める。自分も恋をしたら、こんな風になるのだろうか。桃井は少し考えた。
