らっきーがーる

「黒子君、だっけ…。世間は冷たいね…」
「そうは言っても全然困ったようには見えませんけど」
「え?そう見える?結構内心あせってんだけどなー」

 世間は冷たい。教室も恐ろしい魔の領域。私は自分の席で、一人でお弁当を食べていた。俗にいうぼっち飯。これが、中学か。目をつぶって、自分で作ったお弁当の味を噛み締めている。
 ふと隣でかたりと音がした。なんとなしに首をそちらへ向けると、淡い髪の少年が私と同じくぼっち飯だった。類は友を呼んだのだ。
 彼は黒子テツヤといった。これからの私の悪友である。彼は極端に影が薄かった。そのせいで誰にもまともに気付いて貰えなかったそうだ。…これからお弁当を一緒に食べないか?そう提案すると、彼は目をぱちくりさせた後、「いいですよ」と言った。

「やっぱり進学校は女子も高レベルだったね。私以外」
「キミ、全然垢抜けてないですもんね」
「わぁ毒舌!黒子は友達作ろうと思わないの?」
「…その内ぼちぼち…。僕の存在に気付いてくれる人がいたら」
「そうか」

 彼に友達が出来たら紹介してもらおう。文学少年っぽい彼のことなら、きっと真面目な友達が出来るに違いない。
 しかし…。みんなスカート丈、短い。小学校からそのまま来た私、イモい。

「僕が言うのもなんですが、キミはもっと髪を整えて、スカートももう少し短くしたら、きっと溶け込めますよ」
「有難う。しかし、本当に君が言うのもなんだね…」
「クセ毛なんです」

**

「格好を気にしてみたよ どう?どう?」
「見た目は普通の中学生ですよ」
「やったね!私自身空間に溶け込めてる感はする!」
「じゃあ誰かに声をかけてみたらどうですか?」
「えー」

 足がスースーする。スカートを持ち上げたら「はしたないですよ」と言われた。
 声をかけることに関しては正直めんどくさい。もう『グループ』とかいう組織は出来上がってるし。黒子の傍が、なんとなく心地いいので、いいかなー。適当にやっていくか。

「それより部活に入ったみたいだね」
「あぁ、バスケ部に入りました」
「地獄だって聞いたけど」

 頬杖をついて部活の事を聞く。担任に部活届け渡してたのを見た。黒子は高レベルで鬼畜だと有名なバスケ部に入っていた。見た感じ文学少年なのに(っていうか小説よんでる。ながら会話か)

「えぇまあ」
「辞めないの?」

 やはり鬼畜か。少し視線を落として頷いた黒子をじっと見つめる。私とは違う人種だ。きらきらしているような。

「早々になんてこと言うんですか。辞めませんよ」
「へえぇー辛いのに?」
「好きなんです、バスケ。…小学校の時の友達とも『バスケ一緒に頑張ろう』とも約束しましたし」
「男同士のお約束」
「ええ」

 熱いね。そういうのがあって続けていく気になるのか。まぁでも入って数日だし、その内辞めたら辞めたで、それもいいんじゃないかな。

「ところで何の本を読んでいるのかな?」
「小説です」

 む。

「そこをくわしく!」
「重松清の『きよしこ』」
「知らないな、どういう内容?ネタバレしてよ」
「読んだほうが面白いですよ、図書館でも行って借りてくる事をオススメします」
「そう…。気が向いたら借りてみる」
「小説を読むのは好きじゃないんですか?」

 黒子から質問をされた。初質問かも。

「まぁ…そういえばそうなるかなー」

 興味がない事にはとことん興味がない。やる気がないと読めない。読む必要がないと読めない。強制されないと読めない。そんな子だ。彼はそんな私を知ったらどう思うだろうか。失望するか。

「そういえばキミは部活入ったんですか」
「うん、帰宅部」
「それ、入ったっていうんですか」

 黒子がただでさえ細い目を細める。

「細かい事は気にしない。…自由はいいよ」
「…確かに好きに使える時間があるのはいいですね」
「うん」

**

「暑いね、部活はどう?」
「……恥ずかしい話ですが、三軍からあがれてません」

 虫がじわじわと増えてきた。絶滅してくれたら世の乙女達は泣いて喜ぶ。黒子は最近元気が無かった。原因の選択肢を考えてみた。@家庭の問題。それは聞けないだろう。失礼だし。A実は友達があまりいないのを気にしている。私が友達だよ!と言うしかないだろう。B授業で組になったりグループになるのが辛い。私もです。嫌な奴と組む時程、嫌な時は無い。いい子ならいいんだけど。…でも黒子ってそういうのの耐性とかありそうだな。C鬼畜部活。これから聞いてみよう。…そしてビンゴか。嬉しくないけど。
 バスケ部は一〜三軍まであるみたい。三軍はあまり上手くない人がたまってると他人の会話から聞いた。

「…手に豆できてるじゃん、努力してるんじゃん」
「結果的に三軍ですから、意味無いんです」

 日に日に増えていく豆を私は知っている。頑張れてるじゃないか。えらいじゃないか。
だが、そう言ったら黒子は、全てを吐露してしまいそうな顔になった。色々な確信をついてしまったようだ。いつもの無表情はどこへいったのやら、弱弱しい目線を私に向けてくる。私はそれを逸らせない。逸らしたら駄目だ。

「才能が、ないんです」
「……好きな事なのに?」
「……」
「嫌になったら辞めちゃえばいいよ」

 気楽に言ってみた。黒子の瞳が揺れる。選択を迷っているようだ。…続けることは、とてもいい経験になる、と思う。好きな事ならなおさらだ。

「でも、そうやって続けて、努力出来るのも才能だとは思わない?」
「……」
「辛いのに、これまで頑張ってこれた君は凄いと思う」
「…さん」

 黒子はしばらくして小さく、「もう少し続けてみます」と言ってくれた。私は「それもいいね」と返した。
 私に出来ないであろう事をする君は眩しい少年だ。後光かな?と思ったら窓辺から日が差してるだけだった。



いいことひとつめ、黒子と仲良くなった 13.10.09
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