タルカジャ

 彼をちゃんと見たのは、バスケ部に入部する時だ。確か同じクラスだった。斜め後ろから彼の顔を見つめてみる。綺麗、という言葉がぴったり当てはまる少年だった。白い肌に、藍色の髪が映えている…。見入っていると、彼と目が合ってしまった。慌てて監督の方を向いた。
 帝光中学バスケ部。長年数々の栄光を生み出してきた名門のバスケ部だ。初っ端からチームに分けられテストをする事になるが、誰も嫌な顔ひとつしない。皆実力を発揮しようと、熱気がこもるだけだった。
 僕も頑張ってチームに貢献したいとは思うが、実力がそんな気持ちに伴っていない。
だけど、迷惑にならないように頑張らないと。同じチームに分けられた人達に挨拶しようとした。しかし、声を出しても皆僕には気付いていない。産まれてからずっとこんな調子だから、さすがに慣れたが、やはり少し悲しい。

「あれっ俺らのチーム4人じゃね?大丈夫かこれ」
「あ、本当だ、監督がミスったのかな?ちょっと俺言ってこよ…」

「その必要はないよ、ちゃんといるじゃないか、彼も」

 彼の声がやけにクリアに響いた。肩に暖かい感触が生じる。はっと横を見て初めて肩に手を置かれたのだと気付いた。
 彼―…紺野君は僕に気付いてくれた。唯一の人だった。僕に微笑みかけてくれる。「有難うございます」と彼に伝えると、「いいんだ」と笑みを深める。
彼が一緒にいてくれたおかげで、ようやく他の、チームのメンバーも僕の存在を分かってくれたようで、口々に「悪い」と謝ってくれた。

「やっぱり皆一軍入りを目指してるんだよな?」
「そりゃそうだよ!一軍入って、目指すは全中制覇だよな〜」
「だったらこの試合で最初の位置づけが決まるんだ、俺達は全力でプレイして実力を見せ付けないとな」

 彼の声は不思議だ。騒がしい体育館の中でも耳の中へ、すっと入っていく。素直に受け止められる。そんな気がした。他の3人も、やる気がさらに増したようだ。
 談笑が終わると、早速試合をはじめる事になり、僕達のチームが監督に呼ばれ、コートに入る。相手のチームもコートに入る。…青い髪の日焼けした少年と、緑の髪の、眼鏡の少年が少し目立つ。

「この2チームでここは試合をしてもらう、ポジションは身長で決めさせてもらった、呼ばれたら配置につけ」

 僕と紺野君の他の3人は背丈があるので、センター、パワーフォワード、シューティングガードは彼らに決まり、僕はスモールフォワード、紺野君はポイントガードになった。
青い彼は、パワーフォワード、緑の彼はシューティングフォワードになっていた。
試合が始まると、青い彼がとてつもないプレイを見せ付ける。ボールを取ると、速攻でゴールまで駆け、二人がかりでゴール下から止めようとしたにも関わらず、それをかいくぐり、ダンクしてのけたのだ。体育館内がざわついた。僕達のチームにも動揺が走る。
その瞬間から一気に勢い付いた相手のチームは、緑の彼はボールが渡ったら3Pシュートを確実に決め、青い彼にボールをカットされれば、そのまま速い足でゴールまで持っていかれ…。
 僕達のチームも負けじと点を入れるが、点差は20点程開いていた。「僕がいるから」といじけたり「勝てない」と諦めそうになった時、凜としていて、そんな気持ちを吹き飛ばす声が届いた。

「…紺野君」
「皆燃えるな、この試合!…諦めてなんか、ないよな?」
「…紺野、つったってよ…これじゃあ…」
「一軍に入って、全中制覇するんだろ?勝てないから無理ーなんていわないでくれ。その夢、僕が協力する、なんとかするよ、僕を信じてみてくれ。僕がこのゲームを切り開くから」

 彼は笑いながらも真剣な眼差しをしている。それが、チームの一人一人を突き刺す。
不思議と気力が湧いてくる。…声だ、この声のおかげだ。まだ彼の事を何も知らないのに、信じられるような気がする。胸の内に響く声色だった。
 そして紺野君は全力でボールを取りにいった。あの素早い青い彼に根気で食らいつく。圧倒されていた。その気迫に。青い彼が舌打ちをし、他のメンバーにパスしようとした時、彼が僕を呼んだ。

「黒子!」
「!はいっ…」

 名前を呼んでくれた。心地いい。嬉しい。耳から彼が呼んだ僕の名前が入ってきて、甘く脳内をかけめぐる。やれる。という気持ちが湧く。彼の期待に沿わなければ、と切迫ではなく、心地よい緊張が生まれる。丁度その選手の近くにいた僕はそのパスをカットし、同じメンバーの人にすかさずパスをした。若干驚かれたが、彼はボールを受け取ると、3Pシュートを放った。それはリングに吸い込まれるように入った。この試合に参加している誰もが呆気にとられていた。

「ナイッシュー!十点台になった、まだいけるぞ!」

 紺野君はシュートした彼の背中を叩いて、自分たちのコートへ戻っていく。彼は僕も見てくれた。嬉しそうな笑顔だった。

「黒子もナイスカット!追いつけるよな!この試合!」
「…はいっ」

 彼は僕を抜き去っていく。その後姿は、とても凛々しかった。
 試合は接戦までかこつけた。だが、ブザービートが鳴ってしまい、終了してしまった。…このままの勢いだったら、同点、いや、もしかしたら勝てたかもしれない。試合が終わり、汗だくの僕らに、君はタオルで汗をぬぐいながら、こう言ってくれた。

「すまないな。試合に勝とうと思ったのに…。僕にもっと青峰に対抗する力があれば…」

 彼の言う事は、彼以外が言ったら大げさに思えるものだった。彼だからこそ、こんな言葉をかけられても、気分を害することがない。寧ろ、彼だから似合うセリフだと思った。僕らは首を振った。チームの一人が真剣に悔やんでいる紺野君の肩を叩いた。

「んな事ない。俺ら、こんだけ全力でプレーしたの久々かも、ありがとな、紺野」
「そーそー!お前と同じチームに入れて、良かったよ!」
「…有難う」

 紺野君は表情を緩ませた。その顔にドキっとした。彼もこんな年相応な表情を見せるのだ、と。…僕は彼を何だと思っているのだろう。
 僕は、彼がチームの皆に駆け寄られる光景を遠巻きに見ていた。その内、青い彼、青峰君もその輪に入ってきた。彼を褒めている。何だか、それを、自分が褒められているように嬉しくなってしまった。

**

「三、軍…」

 やはり、あまり試合に活躍できなかった僕は三軍だと発表された。次々に名前と共に所属する場所を発表していく監督。紺野君は二軍だった。…試合で対戦した青峰君、緑間君は一軍になった。他にも二人、一軍に名を呼ばれていた気がする。…一年生で一軍は異例だと、誰か言っていた。
 早速各軍に分かれて練習する事になった。皆それぞれ体育館に移動していく。この学校は体育館が複数もあるからだ。三軍はここに残るようだ。ぼうっと一年生がはけるのを待っていた時、彼が僕の名前を呼んだ。

「黒子。早く二軍に来いよ。待ってるから」
「紺野君…。はい、キミと一緒にまた、試合したいです」
「うん、僕も。黒子とバスケしたいから――」

 笑いかけてくれた。僕も表情を崩して、それに応えた。

ふわふわした少年ってかんじで書きたい。
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