高校にて
※R15
体育館にモップをかける作業をする。時刻は夕方。少し開かれた扉からは、オレンジ色の景色が見える。それをぼうっと見つめる。しかし、景色から連想された、思い出に耽っている暇はない。早く掃除を終わらせないと、主将である「彼女」に迷惑をかけてしまう。
私は慌てて、早足でモップを床にかけていく。そうしながらも、私は小恥ずかしい中学時代をまた思い返していた。
中学校の頃は、常に先を行く「彼女」に置いていかれないか心配だった。一緒にいると、楽しいのに、彼女が離れていってしまうと、私は心細くなった。視線を机に向けて、じっと考えた。私の事に飽きて、他の子の所にずっと行くようになったらどうしよう、と。
部活が終わる頃なんか、最悪だった。当時の私達はお互い別の部活に入っていた。でも、一緒に帰ろうと約束していたので、急いで楽器を片付けて体育館に向かっていたっけ。その頃も彼女はバスケをしていた。ボールを片付けたり、次の練習の打ち合わせなんかをやっていて、彼女はまだ体育館にいた。部員の人と喋っている彼女を、遠目から眺めていた。
やっと後片付けが終わって、一緒に帰ろうとした時だって、私の悲劇は続いた。彼女はバスケ部の人とも一緒に帰る気だったのだ。しかも個性あふれるレギュラーの人達、だ。必然的に会話はバスケの話になる。彼女の横にいながら、彼女がはるか遠くにいるように感じられた。必死に会話についていこうとしたが、上手くいかない日々。ため息をつきたくなった私がふと空を見上げた時。見えたのは、一面の夕焼け空だった――。嫌な景色だとあの頃は思っていた。
精神的に未熟だったのだ。時には不安が爆発して、征ちゃんに「嫌いにならないで」と抱きついて、泣いてしまうほどにもなっていた。そんな時、征ちゃんは必ず私の髪をなでた。そのまま唇を私の耳元に近づけて、「大丈夫だよ。私の一番はなんだから」と大人顔負けの言葉を口にした。その時は征ちゃんの愛情を胸に、暖かい安心感に浸りきる。だが、暫くすると一番?じゃあ一番じゃなくなったらどうしよう!?と段々不安になってきて、また泣きながら抱きつく、の無限ループだった。
よく彼女に嫌がられなかったな、と思い返してしまう。早速征ちゃんに尋ねてみたら、きれいな笑顔で私の質問に答えてくれた。「好きな子だったんだ。何やったって可愛いと思えるさ」手を握りながら力説してくれた。…まぁなんやかんやあったが、あの日々があったから、今の私があるといえよう。
今の私は征ちゃんに依存なんかしてない!と断言できる!
「そうだな。…僕は結構寂しくなったけど」
「うわぁっ征ちゃん!?…心を読んだの!?」
モップをかけ終わり息をつきながらガッツポーズをしていた。その背後から彼女、征羅ちゃんが声をかけてきた。心臓が縮むかと思った。…にしても心を読むほどにもなるなんて、征羅ちゃんに不可能はないようだ。
現在、私達は洛山高校の生徒である。年月が経つにつれ、人は成長していく。征ちゃんは何故か時々オッドアイになったりするようになった。僕っ子にもなった。ものすごく尊大にもなった。…悪い例を示してしまった。
「おい」
やっぱり心読まれてるよ。怒ってら。でも私、ちっとも征羅ちゃんが怖くありません。そう、嫌われる、とビクビクするなんてこと、もうしない。私は征羅ちゃんを信頼するようになったのだ!それは高校生になって、成長したこともある。けれど、征ちゃんが私への愛をかなりの頻度で伝えてくれるようになったのも、理由としておおいにあげられる。
「好きな子に、好きという感情を伝えなくてどうする」
得意げに腕を組む征ちゃんを見て、苦笑いしてみせた。あの頃にこの言葉を聞いていたら、顔を真っ赤に染められる自信がある。
私は征ちゃんにモップをもぎとられる。彼女はモップを元あった場所に戻すと、私の肩を抱いた。
「さぁ、ミーティングをしよう?」
「はーい」
私を、体育館に隣接するロッカールームへといざなった。彼女は女子バスケ部の主将で、私はマネージャーを務めている。二人で、今日の反省や、次回強化して練習する箇所を、それぞれ一人ずつ選手に伝えるため、情報を出し合う場だ。最初は一人ずつ様子を把握するなんて、どんな無理な作業だ!と思っていた。しかし征ちゃんに、自分と組む事を義務付けられ、彼女の飴と鞭教育を受けたおかげでまぁまぁ出来るようにはなってきた。人間は適応するものなのだと体で教えられた気がする。
ロッカールームの扉をあけた征ちゃんは、私を先に部屋にいれてくれた。その後自分が入り、扉を閉め、ごく自然に、まるでそういった作業をしなければいけないかのように、内側のドアの鍵を閉めた
私はびくっとした後、固まった。主将である彼女には鍵が預けられている。体育館の鍵、…ロッカールームの鍵。これはオリジナルしか存在しない。従って、外からは一切ここを開けられないようになってしまった。
私は、まだ私に背を向いている征羅ちゃん…の前にある、横に倒されたドアの金具をじいと見つめた。これから始まる事に、大きな不安を抱いた。
「征羅ちゃん…」
「僕達、最近体を重ねてないよね」
やっぱり、やっぱり、そういうことか!!私は征羅ちゃんのその気を抑える為に声をあげる。
「い、一週間ですよ。征ちゃん…」
「そう!一週間だ!僕はの乳房のふくらみが恋しくて恋しくて仕方なかったんだ!!」
「征ちゃん、声!声抑えて!」
征羅ちゃんは振り返って、舞台で俳優が演劇をするかのごとく憤慨した。私はただただ周囲に彼女の叫びが聞こえていないか、慌てていた。
征ちゃんの愛は、私とHな事がしたい、というものまで膨れ上がっていた。一緒に住んでいる部屋で、時折私達は、している。…だが最近はどちらも予定があったので忙しくて、していなかった。征ちゃんとは週に3回ほど、している。(若気の至りか、本当は毎日したいとか言っていたが、私の体がもたないので丁重にお断りした)だが、今回は、一週間もそういう事がなかった。学校で顔を合わせる征ちゃんの眼が、日に日に獣のように鋭くなっている気はした。だけどお互い、私の委員会の仕事や、征ちゃんの生徒会の仕事が重なるように忙しくて、そんな事を言い出す雰囲気ではなかった。
だが、今日は金曜日、明日は休日だ!という素晴らしい日だ。…私は帰ってから、される気でいた。なのに、この人は、ここでやろうというのか!?
なれた。